窓を開けると、まだ夜の匂いがうっすらと残っていて、庭の柵に一羽のかささぎが止まっていた。音のない朝、というのはきっとこういう日のことを言うのだろうと思った。雪は降りやんでいて、東の空はうっすらと暖かい色をしていた。
かささぎは しばらく身じろぎもせず、まるで景色のほうが動くのを待っているように見えた。庭の影は青くひいていて、地面のほうがむしろ温かい白に見える。光と影が逆になったみたいな朝で、しばらく、台所に戻るのも忘れていた。
The shadow is not the absence of light — it is light, of another colour. — a note, somewhere in a sketchbook
影が青いのは光の色のせいだ、という話を以前どこかで読んだ。あれを 本当だな と思ったのは、今朝この景色を見て、ようやくだった。
湯気の立つ珈琲をカップに移して窓辺に戻ると、もうかささぎはいなかった。柵の上には雪がうっすらと盛り上がっていて、さっきまでそこに鳥がいた、ということだけが、わずかな凹みになって残っていた。
世界はずっとそう見えていたのに、誰もそう描いてこなかった、というのは、青い影について何かの本で読んだ言葉だ。書くこともきっとそうで、ずっとあったのに誰も書き留めなかった色のようなものを、すこしずつ言葉にしておきたいと思う。今朝のかささぎは、たぶんそういう一日の始まりだった。